2011年7月31日日曜日

原発のあるまち…福島・福井、膨らんだ赤字

こういう体質を根本から治していかないと、原発はなくならないのでしょうかね。

 初夏のある日の午後5時すぎ、福井県敦賀市の敦賀原発に向かう道路に地元の観光バスが列を作っていた。日中は交通量の少ない道路だが、このときは警備員がバスを誘導しなければならないほど混み合う。原発は原則として13カ月に1度定期検査をすることになっている。バスは、検査に伴って各地から集まってきた原発関連企業の社員らを乗せて出発した。定期検査時期になると、JR敦賀駅前などのビジネスホテルは原発関連の宿泊客で埋まることが多い。

 福井は東尋坊(とうじんぼう)や芦原(あわら)温泉などがある県北部の嶺北(れいほく)に比べ、原発が集中する南部の嶺南(れいなん)は観光スポットが少ない。若狭湾に面した高浜原発(高浜町)に近い宿泊施設も夏の海水浴や冬のカニシーズン以外の実情は“原発頼み”。民宿の女将(おかみ)(64)は「原発関連のお客さんは、何カ月も泊まってくれるので部屋はほぼいっぱい」と話す。

 また、住民の3割以上が原発関連の仕事に就いているとされる美浜町。40年以上前の建設当初は草刈りなど単純作業が多かったが、今では専門業務の請負もある。周辺の浚渫(しゅんせつ)や機械設置に伴う潜水作業に従事したという60代の男性は「収入は安定し、仕事に誇りも感じる。作業で不安を感じたことは一度もない」と言い切った。

 ベイエリアにそびえるリゾートホテル、ヨットハーバー…。おおい町の若狭湾沿いに平成21年に本格オープンしたレジャー施設「うみんぴあ大飯(おおい)」。大飯原発を抱える同町などが整備したが、豪華な光景とは対照的に、雑草の茂る広大な空き地がひときわ目立つ。

 敷地内にあるホテルうみんぴあは、建設費と運営費は計50億円に上るが、このうち20億円は国から原発立地自治体に交付される「電源三法交付金」があてられた。町商工観光振興課の担当者は「(交付金の)恩恵がなければ、こうした施設はできなかった」と話す。

 計画当初はデパートなどの進出も見込んだが景気低迷でかなわず、企業誘致対象約5万平方メートルのうち、原発関連企業が進出したものの、今夏開業予定だったホームセンターは東日本大震災による事業見直しで計画を保留した。残り2万平方メートルの誘致見通しは立っていない。

 「マスコミで(福島の)原発事故が取り上げられることで、風評被害は企業誘致にも影響しかねない」。誘致担当者は神経をとがらせる。

 こうした“原発マネー”を活用したレジャー施設が、自治体財政を苦しめる例がある。敦賀市の温泉施設「リラ・ポート」は、展望レストランや露天風呂、プールなどを備え、約24億4千万円の電源三法交付金が投入された。しかし年間運営費1億円が市の財政を圧迫し、民間に運営を委託。22年度の収入は約3億5千万円だったが、累積赤字は約7億5千万円に上る。

 市財政課職員は「電源三法交付金で建設した施設は毎年数千万円以上の赤字。これはどこの市町村も変わらない」と明かす。

 「一つ後悔するとしたら、地元の企業に何も恩恵がなかったことだ」

 元美浜町原子力対策室長補佐の町野孝博(73)は指摘する。原発を誘致した昭和30年代、高度成長のまっただ中とあって地元企業は住宅建設に集中し、原発には見向きもしなかった。住宅ブームが去ると原発関連事業に参画することもできず、一気に沈滞した。

 現在、全国の原発立地地域で広まっているのが、女川(おながわ)原発(宮城県女川町)建設時に地元企業を下請けに回して成功した「女川方式」。美浜町でも、稼働40年を超えた美浜1号機の後継機増設で地元企業の参画が模索されている。

 ただ、福島原発事故を機に増設の機運は一気にしぼんだ。2基の増設計画がある敦賀原発の地元、敦賀商工会議所常務理事、澤本光男(57)は「受注工事を起爆剤に地元を活気づかせたいが…」と苦渋の表情を浮かべた。

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