2012年7月16日月曜日

校庭の芝生はなぜはがされたのか 交錯した大人たちの「思惑」

しっかりと、部活が使う部分とかは確保しておけばよかったのでは?今となっては後の祭りか・・・


 大阪府岸和田市の市立春木中学校で平成22年12月、校庭に敷き詰めたサッカーのフィールド(ピッチ)とほぼ同じ広さの芝生のうち、約3分の1を野球部員とソフトボール部員の保護者らが重機ではがしたというニュースがあった。両部の一部保護者が「グラウンドがデコボコして練習がしにくい」と、学校に無断で芝生を除去したのだった。芝生化は20年度から進められた橋下徹府知事(現大阪市長)の施策の一環だったが、今年3月には元の土のグラウンドに戻された。前代未聞の「芝生はがし」の背景には、大人たちの思惑やエゴが潜んでいたと指摘する声もある。

■練習の邪魔になる

 岸和田市教委やPTA関係者らによると、春木中の校庭芝生化は21年1月に職員会議で一部の教職員から提案されたことがきっかけだった。

 同年2月に芝生化を決定し、校内に実行委員会を設け、4月には、府からの補助金の受け皿となる緑化委員会を、校長を委員長として地域住民とともに立ち上げた。

 そして、6月に府の補助金300万円と地元からの寄付約500万円を使って、生徒や保護者の協力で芝生を植え付けた。芝生は約9千平方メートルのグラウンド全面に及んだ。校庭芝生化は、橋下氏が「子供に元気に外で遊んでほしい」と知事選の選挙公約に掲げ、知事就任後に「みどりづくり推進事業」の一環として補助金が出されたのだった。

 しかし、22年11月5日になって、野球部員とソフトボール部員の保護者が「芝生が自然にはがれデコボコしており、練習しやすいようすべてはがしてほしい」と学校側に抗議。同12日の話し合いで、学校側は保護者側に「整地については学校としてできることはやるが、芝生ははがせない」と説明したが、芝生に手をつけないことを条件に、グラウンドの手直しは認めた。

 その後も両者で協議を重ね、同27日に学校側が費用を負担することで、16トンの土砂を購入して整地。さらに保護者側から「12月4日にグラウンドを整備する。土を用意してほしい」と要求を受け、18トンの土砂を追加購入した。

 保護者側が芝生をはがしたのはその12月4日朝だった。野球部やソフトボール部の生徒の保護者数十人が春木中を訪れ、パワーショベルなどを使って両部が練習で使っている約3千平方メートル分の芝生を学校側に無断ではがしたという。

■当初は原状回復求める

 この対応に対し、当時の校長は「保護者側に芝生ははがせないことは伝えていたが、約束を破られたことは遺憾だ」として、保護者側に原状回復を求めた。

 そして、橋下知事(当時)も「残念だ。一部の保護者の暴挙なのか、地域住民の総意なのか、確認する」とコメントした。

 この問題はそれぞれの保護者の意見の対立もあり、尾を引いた。

 23年7月には市教委が保護者から聞き取りを実施。市教委内に対策委員会を発足させ、8月に学校管理課による調査を実施した。11月にはPTAが臨時総会を開き、芝生化反対の決議に至った。

 そして、今年3月にグラウンドの土を約10センチ掘り下げ、新たな土を入れ元の土のグラウンドに整備されたのだった。府からの補助金300万円については、3月に定年退職した当時の校長が、4月に自費で返納した。

 一通りの決着が付いた今年6月23日には、市教委が初めて地域の住民に説明会を開いた。この説明会で住民からは、問題解決のために積極的に関与してこなかった市教委批判の声が相次いだ。

 市教委側は一連の騒動の経緯を説明した上で、原因については「当時の校長が保護者の思いを受け止めることができなかった」として前校長の対応が不適切だったと指摘。その上で、「校長を適切に指導できなかった」として市教委の責任も認めた。

 そして、「芝生化によって、クラブ活動に支障がでていたことは知っていたのか」との住民の問いに対し、「校長に『大丈夫』と言われれば、それ以上は市教委として踏み込めなかった」と弁明した。

 芝生化には約800万円が費やされ、その撤去費用として市が976万円を支出した。「(合わせて)約1700万円がどぶに捨てられたのと同じ」という住民の指摘に対し、市教委側は「芝生化事業そのものは否定しない」としながらも、「事業を進めるにあたって準備段階から不備があった。市教委として事業は失敗だったと認識している」とした。

■騒動のきっかけは

 今回の芝生騒動は、岸和田市内にサッカーピッチをつくりたいという地元サッカー関係者の思惑がきっかけになった、と話す地元関係者もいる。

 学校と地域で立ち上げた緑化委員会が事業申請した約9千平方メートルはまさにサッカーピッチの広さで、府のみどりづくり推進事業の補助金に申し込んだのは「資金よりも、公立中学校の校庭を芝生化するためのお墨付きがほしかったからだろう」というのだ。

 別のPTA関係者は「21年6月に芝生を植えて、その後は養生という形で体育の授業も一時体育館でするなどして育てていた」と証言する。その後芝生の一部がはがれるなどして、野球部やソフト部の練習に支障が出始めた。22年11月の保護者から芝生をはがして元の土のグランドに戻したいという申し入れの際、校長も支障がでていることを認識した上で、「それならば、芝の上に土をかぶせてほしい」と言ったという。

 この関係者は「あくまで推測だが」と前置きした上で、「芝生をはがしてしまうと事業が失敗したことになるから、校長は土をかぶせることでごまかそうとしたのではないかと思っている。22年12月4日に、保護者が一部を重機ではがしたとき、スコップでやると時間もかかるし、休日でやってしまわないといけないので重機を使ったようだ」と打ち明ける。

 何が芝生はがしの原因となったのか、関係者の意見を総合すると、(1)芝生化事業を失敗させたくない、という当時の校長の考え(2)子供らのためにサッカーピッチを作りたいという大人の都合(3)芝生化の難しさや他のクラブ活動への影響を考慮せず、安易に補助金を出した大阪府の責任(4)市教委が解決のために積極的に関与しなかった-などが浮上してくる。

 当時を知る野球部員の保護者の1人は「芝生をはがすことはやり過ぎだったかもしれない。問題化した結果、子供がショックを受けていた」と振り返る。

 校庭芝生化という子供の教育にプラスになると思われた施策だったが、それを活用した大人たちの意見はさまざまだ。本当に子供たちの教育にとって最善だったのか、今でも議論が分かれている。

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