辛いですね・・・戻って、生活できるようになる日はくるのでしょうか・・・?
「一時帰宅はどこまで認められるのか」「放射線量が高いのに大丈夫なのか」。福島第1原発の20キロ圏内を22日午前0時から立ち入り禁止にするとの21日の政府発表を受け、福島県内外で避難生活を送る約7万8000人の住民に大きな波紋が広がった。一時帰宅への期待が高まる一方、やり残したことを「最後の1日」で済ませようと圏内を行き来する人の動きも目立った。原発事故の影響は圏内で暮らしていた約7万8000人の営みを翻弄(ほんろう)し続けている。
◇楢葉町牧場主
同県楢葉町の蛭田(ひるた)牧場。20キロ圏外のいわき市に避難している経営者の蛭田博章さん(42)は21日、約130頭の牛たちに最後の餌を与えた。強制力のない「避難指示」の段階では、3日に1回のペースで餌やりのため牧場に入っていたが、22日午前0時以降は不可能になる。蛭田さんは「何もしてやれず、ごめん」と牛たちにわびた。
この日、蛭田さんが干し草を積んだトラックで到着すると、エンジン音を聞いた牛舎からは一斉に鳴き声が起きた。まず飲み水を与え、次に干し草を一列に並べると牛たちは我先にと食べ始めた。与えたのは1日分。牛が飲まず食わずで生きられるのは約1カ月が限度という。
子牛の牛舎を見ると生後3カ月の雌牛が栄養不足で死んでおり、別の1頭が絶えそうな息で横たわっていた。蛭田さんは重機で掘った穴に死んだ子牛を埋め、瀕死(ひんし)の子牛の背中をずっと、なでた。「ごめんな、ごめんな」。涙が止まらなかった。
立ち入りが禁止される今回の事態を前に、牛舎から牛を解き放とうと何度も悩んだが、近所迷惑になると考え、思いとどまった。最後の世話を終えた蛭田さんは「一頭でも生かしてやりたかったけど、もう無理みたいです。次に来るときは野垂れ死にしている牛たちを見るのでしょう。つらいです」。それ以上、言葉が続かなかった。
◇検問で列
政府による「警戒区域」の設定が発表された21日、福島第1原発の半径20キロ圏に取材で入った。主要道路は、警戒区域に切り替わる22日午前0時より前に圏内の自宅から荷物を持ち出そうとする住民の車で混雑した。
国道6号の原発20キロ地点に設置された楢葉町の検問所も列ができていた。警察官は「今日までは立ち入りを認めているが、明日からは完全に入れなくなる」と説明し「短時間で出てください。出た後は(被ばくの有無を調べる)スクリーニング検査を受けてください」と念押ししていた。
夕方、圏内からUターンを始めた車には、多くの家財が積まれていた。マスク姿の運転者が目立ち、防護服代わりのような雨がっぱで頭を覆った女性もいた。荷台に犬を乗せた軽トラックも通り過ぎていった。
この日、出会った楢葉町の森田孝広さん(35)は家財道具を持ち出すためトラックを借りて「家にある7割くらいは持ち出した」という。仕事があるため妻と小1の長男、1歳の長女を東京の実家に預け、いわき市内で単身の避難生活を送る。自宅が警戒区域になることに「何も考えられない。目の前で起きることを一つ一つこなしていくだけ」とうつむいた。
町内には今回の問題を生み出した原発の復旧に当たる前線基地「Jヴィレッジ」がある。施設内では、この日も多くの作業員が防護服に身を包み、原発に向かうワゴン車やバスに乗り込んでいた。
スクリーニング検査を実施しているいわき市保健所によると、この日は圏内の楢葉町や富岡町にいったん戻った人を含めた検査が平常より3割増えた。持ち出した家財道具の検査ができるかの問い合わせもあり、職員らは遅い時間帯まで対応に当たっていた。【町田徳丈、石川淳一】
◇郡山避難女性
福島県内外の避難所などに身を寄せる住民の関心は、今後実施されるとみられる一時帰宅に集中した。
最も多い避難住民を受け入れている「ビッグパレットふくしま」(郡山市)には21日、菅直人首相が訪れた。
津波で集落全体を流された富岡町のパート、佐藤恵美子さん(50)は首相に「よろしくお願いします」と声を掛けたが、本音では「早く帰らせて」と怒鳴りたかった。震災から一度も帰宅できておらず、アルバムや思い出の品も捜したい。ただ佐藤さんは「放射線で汚れたものをそのまま避難所に持ってくるわけにもいかないだろう」と、複雑な思いをのぞかせた。
家族4人と寝泊まりする同町の会社員、遠藤和也さん(43)は今まで2回、帰宅して通帳などを持ってきたが、両親の保険証を回収できていない。一時帰宅に期待しているが「本当はみんなで戻りたいが、放射能が怖いので子供2人は連れて行けない」と話した。
山形県米沢市の避難所に身を寄せる浪江町の会社員、金沢良行さん(48)は警戒区域設定のニュースを知り、車を飛ばして自宅に家財道具を取りに行った。国の一時帰宅の方針については「一時帰宅は乗り合いバスで移動するというが、多くの荷物が載せられない。もう少し自由にできないのか」と訴えた。
一方、第1原発の3キロ圏内は一時帰宅の対象外に。双葉町長塚から米沢市に避難している東電協力会社員、渡部恵丞(けいすけ)さん(32)は「一時帰宅できたら衣類や日用品、3人の子供のアルバムを持ってきたかったが……。こんなことなら自己責任で戻って回収しておけばよかった」と肩を落とした。
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