2012年9月30日日曜日

“凶器”と化す老朽「消火器」 全国に1000万本

一度、是非総点検を!思ってもいないところに放置されているかも?

 大阪市東成区の屋外駐車場で平成21年、放置された消火器が破裂し、後遺症が出る重傷を負った中学1年の男子生徒(13)=当時小学4年=が9月5日、消火器の管理責任を追及するため、国や消火器製造メーカーなどに損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。この件のように、老朽化したまま放置された消火器の破裂事故は相次いでおり、死亡者も昭和43年以降16人に上る。こうした危険な消火器は全国に約1千万本以上あるとみられるが、実態把握や回収は進んでいない。

 ■国内に5千万本

 老朽化した消火器をめぐっては二つの問題が存在する。

 一つは、どこにどれぐらい放置されているのかという実態把握が困難で、誰にでも事故に遭う可能性が残されていることだ。

 消火器の製造メーカーで構成される業界団体「日本消火器工業会」によると、毎年製造される消火器は数百万本。耐用年数は8~10年とされており、現在国内には約5千万本が普及しているとみられる。

 消防法施行令では、映画館や飲食店、百貨店、病院、学校などの施設は防火設備の点検(5年に1回)が義務付けられている。消火器も点検対象に含まれ、耐用年数を過ぎていたり、期限内でも腐食などの異常が発見されたりした消火器は交換の対象となる。

 一方、防災意識の高まりから一般家庭にも消火器の普及が進んだが、消防法施行令の対象外となるため、点検が義務付けられていない。一般家庭では、耐用年数が経過した後に新しい消火器を購入した際、処分されずにそのまま家庭に放置されている消火器も多くあるとみられる。

 今回の事故現場となった屋外駐車場も同様に点検の対象外となっていた。元管理人の男性は、車の火災があったときに使用すればいいと考え、少なくとも20年近く無点検のまま放置されていたという。

 ■放置は1千万本以上?

 事故を受け、消防庁や日本消火器工業会には、一般家庭から、老朽化した消火器の処理方法についての問い合わせが相次いだ。

 百貨店などの施設を含めた消火器の処理件数は、事故前の20年度が約200万本だったが、21年度には約295万本に増加した。さらに同工業会が、古い住宅用の消火器を回収する窓口を全国のメーカー事務所などに設置したこともあり、処理件数は微増している。

 しかし、耐用年数を過ぎたまま一般家庭や屋外駐車場などに放置されている消火器を一掃するには至っていない。

 こうした危険な消火器は少なく見積もっても1千万本以上あるとみられているが、回収作業は進んでおらず、実態把握すらできていないという。

 ■危険な「加圧式」

 もう一つの問題点は、老朽化した際により危険性の高い「加圧式」と呼ばれる消火器が多く流通している事実だ。

 加圧式とは、本体の容器内に加圧用ガス容器を装着し、レバー操作時に圧力を一気に発生させ、消火剤を噴出させるタイプのものを指す。21年度に製造された消火器約483万本のうち加圧式は8割を占めた。

 加圧式の消火器は、本体が腐食した状態でレバーを操作した場合、本体の破裂事故を起こすケースが多いという。男子生徒が被害に遭ったのも加圧式だ。

 消防庁によると、記録が残る昭和43年以降、消火器の破裂事故は165件発生し、うち156件が加圧式だったという。

 このため消火器製造メーカーは現在、危険な加圧式ではなく、「蓄圧式」と呼ばれる消火器の生産体制に切り替えつつある。蓄圧式は、製造時に本体容器内に消火剤を詰めた後に圧縮空気を入れ密封しているもので、破裂事故の危険性が少ないとされる。

 同工業会によると、23年度は製造本数の約50%、今年度は60%を超える見込みとなっている。

 ただ、現時点でどれくらいの加圧式消火器が流通、放置されているのかが不明なのだ。

 ■危険性の注意喚起を

 消火器の破裂事故は、男子生徒の事故以降にも9件発生。昨年9月には、大分県で昭和42年に製造された消火器を処分しようとした男性が死亡している。

 男子生徒の父親(51)は「老朽化した消火器はどこにでもある。犠牲になるのはわが子を最後にしてほしい」と語る。事故以降、大阪市消防局を通じて消防庁や消火器製造メーカーなどに老朽化した消火器の危険性の周知を要請したが、明確な回答はなかったという。

 「行政やメーカーの注意喚起さえしっかりしていれば十分に防げる事故だったのではないか。これ以上、決して被害者を出してはいけない」

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