2012年1月9日月曜日

増え続ける孤独死に需要高まる 遺品整理士の資格認定スタート

家族の変化が、こういったところにも現われてきますよね。寂しいですね・・・


 独り暮らしのお年寄りが増え続ける中、亡くなった後の遺品を整理する仕事の需要が高まっている。昨秋には業界の健全化を目指して、遺品整理士の資格を認定する一般社団法人が北海道千歳市に設立。すでに全国で次々と遺品整理士が誕生している。遺品整理業を題材にしたさだまさし原作「アントキノイノチ」の映画化でも注目されているこの業界の今を探った。

 「遺品整理をしている業者は今、全国で3000社あるといわれている。リサイクル業や運送業、ビルメンテナンス業のほか、便利屋もこの仕事をやっているところは多い。何の資格もないので、中には遺品の指輪や通帳を自分の懐に入れてしまう人もいる。もちろんきちんとやっているところもたくさんあるが、業界全体が健全化されて、日本を守ってくれたお年寄りに対して礼儀を尽くすのが大事なんじゃないかと思うんです」と、昨年9月に千歳市に設立された一般社団法人遺品整理士認定協会の木村榮治理事長(47)は、その意義を強調する。

 遺品整理士の養成は、教本やDVDなどによる通信講座で行われる。受講料は2万5000円で、弁護士や大学教授らの監修のもと、遺品整理の流れ、法律上の注意点、供養の仕方など、法令にのっとった正しいやり方を学ぶ。こうして初心者でも2カ月ほどの研修を経て課題に合格すれば、遺品整理士の認定証書を受けることになる。

 「今は60人くらい受講生がいますが、経験はないもののこの仕事に興味を持っていたという人は多い。命を見つめ直すことで自分も救われる、という理由で開業を目指している人もいます。資格を取った後も2年ごとに更新するので、ちゃんと適正にやっていなければ取り消される。この認定を優良事業者の証しにしてもらおうと思っています」

 木村さんによれば、すでに11月下旬に長崎県の業者が遺品整理士第1号の資格を取得。北海道では業界大手、焚上(たきあげ)協会(本社・札幌市白石区)の中山猛社長(51)が、全国で3番目に認定されたという。

 その焚上協会が行う遺品整理の現場を見せてもらった。札幌市内の某所、古い一軒家で、最後は高齢のご主人が一人で住んでいたという。病院で亡くなったとのことだが、近しい家族は誰もいなかったようで、遠い親族から同社に遺品整理の依頼が来た。部屋の中には衣類や食器などが無造作に置かれ、つい今し方まで人が生活していたような雰囲気が漂う。

 午前9時、焚上協会の小島勝利さん(45)のほか6人の外部作業員が、それぞれの車で集合。最初に小島さんから「冷蔵庫、洗濯機は残しておいてください」などと簡単な作業の手順が指示された後、黙々と作業に取りかかる。家具など大きなものはそのまま、テーブルの上のこまごまとしたものは段ボールに詰めて、次々と玄関前に運び出す。調味料など液体の中身は流しに捨てて、容器はやはり玄関前に積み上げる。

 10時過ぎ、1回目の回収の時間がきた。積み上げられた遺品はそのままトラックで運ぶのかと思ったら、やってきたのは市の委託を受けたゴミ収集車。ゴミを回転式の鉄板でバリバリバリと砕いて収容するあの車で、ここにタンスだろうが鏡だろうが物干しざおだろうが、何でもかんでもほうり込む。あっけにとられて見ていると、ほんの10分くらいで山積になっていた遺品がきれいさっぱりなくなった。

 さらに冷蔵庫やテレビなどは家電のリサイクル業者が、まだ使用可能なタンスなどは総合リサイクル業者が引き取っていく。こうして正午前には、あれだけ散らかっていた家が、仏壇と神棚以外はほとんど何も残っていない状態になった。仏壇と神棚は親族からの依頼で、供養品としてお焚(た)き上げを行うという。

 うずたかく積まれた遺品の山を2回もゴミ収集車が回収したが、小島さんによると、もともと家族で住んでいた家としてはこれで普通だそうだ。「どこの家にもいえるのですが、不必要なものが多すぎる。遺族に迷惑をかけるから、生きているうちに捨てるべきなんですけどね」と小島さん。

 焚上協会はもう30年も前からこういった事業を行っているが、今回、遺品整理士の資格を取った中山社長によると、業界の95%は違法業者だという。

 「遺族が片づけてくれと業者に頼んで、その業者が処分する遺品をトラックに乗せたら、それで違法なんです。現行の法律では、ゴミは一般廃棄物処理業者じゃないと処分できないことになっている。うちは産業廃棄物収集運搬業と古物商の許可証は取っているが、一般廃棄物の許可証は申し込んでも取れない。だから収集車を呼ぶしかないんです。でも利用者はそんなこと知りませんからね」

 同社はもともと遺品を供養してお焚き上げを行うのが本来の業務で、遺品整理はそれに付随して生じるものだった。現在は、お焚き上げだけなら札幌本社管内で月に300件くらいあるのに対し、遺品整理は5~10件程度だが、中山社長は今後ますます増えていくだろうという。

 「独り暮らしのお年寄りは増え続けるでしょうし、孤独死でなく病院で亡くなったとしても、入院する前に住んでいた家は誰かが片づけなくてはいけない。ただ亡くなって1カ月後に発見される、といったことは減ってほしいですね」

 遺品整理業を題材にした映画「アントキノイノチ」(瀬々敬久監督)では、ウジだらけの部屋を片づける場面などが出てくるが、この道13年の中山社長も、そういう状況にはよく遭遇するという。包丁でめった刺しにされた殺人事件の現場で作業したこともある。

 「血の海を拭いて掃除をしました。好んでやる仕事じゃないけど、誰かがやらなければならない。最後には遺族の方からありがとうといわれるし、それだけ必要とされているんだな、と感じます」と中山社長。

 今回の遺品整理士の養成講座に関してはほとんどが知っている内容だったが、違法業者との差別化を図る意味もあっていち早く受講し、認定を受けた。

 「たとえば土曜に電話があって、明日の日曜に片づけてほしいといわれても、日曜は行政が動いていないので月曜にしかできない。そしたら別の業者が見つかったから、とキャンセルされたが、心情としては、そこは違法業者ですよと言いたいところです。本来なら行政が指導すべきですが、この遺品整理士認定が行政のお墨付きとなれば、違法業者はなくなると思う。そうなってくれるよう応援したいと思っています」と中山社長は期待を込めた。

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