2011年9月30日金曜日

<福島第1原発>帰還完了へ道険しく…避難準備区域解除

課題は山積みですね。戻りたい方が、以前と変わらぬ生活が出来る様になる日は来るのでしょうか?


 東京電力福島第1原発から半径20~30キロ圏内に設定された「緊急時避難準備区域」が解除されたが、課題は山積している。区域内の福島県南相馬市、田村市、楢葉町、広野町、川内村の対象住民5万8500人(9月29日現在)の半数近くを占める避難者の帰還に向け、自治体が除染を実施する場合、費用は最終的に誰が負担するのか。国による支援は十分なのか。住民への賠償や医師不足の解消、学校の再開など、帰還完了にはさまざまなハードルが待ち受ける。

◇除染費用負担で火種

住民の帰還のため最重要なのは、放射性物質の汚染を取り除く除染だ。だが、環境省は準備区域解除に先立つ27日、年間被ばく線量が5ミリシーベルト未満の地域の除染については国の財政支援の対象外とし、原則自治体負担とする方針を打ち出した。

「納得できない。国が全ての費用を持つべきだ」。南相馬市の桜井勝延市長は不快感をあらわにした。

南相馬市は20キロ圏内の警戒区域、20キロ圏外の計画的避難区域と緊急時避難準備区域、それに区域外が混在。せっかく準備区域が解除されても、5ミリシーベルトで扱いが分かれれば、国の対応に新たな線引きが生じることになる。

市内全域の除染に向け、動きの鈍い国を尻目に同市は早々と独自のマニュアルを作り、6月から学校や公園など公共施設の除染に力を入れてきた。これも国の支援が大前提。解除直前の環境省の方針に、桜井市長の怒りは収まらない。「国の対応は場当たり的。全域除染という市の方針は変えない。関係自治体と連携し、国に全面支出を求めていく」

5市町村で最も早い来年3月末の住民帰還完了を復旧計画に明示した川内村の遠藤雄幸村長も「国と協議して(全域除染を前提に)復旧計画を作った。今になってはしごを外すようなまねは認められない」と憤る。

全町避難で会津美里町に町役場を移転している楢葉町の草野孝町長は「国の試算では除染に1ヘクタール当たり7000万円以上かかる。税収もない状態で負担しろというのか」と国に不満をぶつけた。

政府は8月に策定した除染に関する基本方針で「国は財政措置などの支援を実施する」と明記。細野豪志原発事故担当相は9月30日の記者会見で、11年度補正予算や12~13年度の予算要求を通じて、「計1兆1482億円という大きな予算を組む。これで確実に除染を徹底したい」と述べ、1~5ミリシーベルトの場所でも自治体が除染すれば国が費用負担する考えを示した。だが、本格的な除染方針や具体的な基準は検討中で、自治体への財政支援の範囲も明示されてはいない。

一方、解除後も避難生活を続ける住民への損害賠償については、原子力損害賠償紛争審査会が今後、賠償範囲を示す指針の見直しを検討。その結果を踏まえて東電が判断する。細野氏は「賠償と今回の解除は分けて考えるべきだ」と述べ、住民が実際に帰宅するまでの期間を賠償の対象にすべきだとの考えを改めて示した。それでも避難住民が解除前と同等の賠償が受けられるかは不透明だ。

◇戻らぬ医師、診療困難

南相馬市原町区の渡辺病院(175床)は震災前に8人だった常勤医が3人に減った。「とても当直を回せない。(解除されても)入院患者の受け入れは不可能」。佐藤良彦事務長は頭を抱える。辞めた5人は原発事故を恐れたのではない。区域指定に伴い入院が原則禁止とされ治療ができず他の病院へ移った。入院患者の医療報酬が収入の8割を占めていただけに経営も苦しい。理事長が東北大へ何度も通って依頼しているが、常勤医確保の見通しは立たない。

今回解除となる同市の準備区域には渡辺病院を含め5病院ある。市によると、5病院の常勤医療スタッフ数は震災前の924人から8月1日現在で339人に、入院患者数は816人から96人に激減。「医師は移った病院で患者を診ており、もう戻ってこない」と佐藤事務長はため息をつく。

原発事故の影響も加わり、同市を含む県沿岸北部は常勤医の自主退職が続く。県病院協会が震災後から7月下旬の状況を会員127病院にアンケートし54病院から回答を得たところ、沿岸北部の常勤医69人のうち19人(27.5%)が自主退職していた。県全体の自主退職率8.7%に比べ突出し、看護師も2割近くが自主退職した。

「患者の受け入れ機能が限界に来ている病院もある」。医師も看護師も足りない現状を同協会の前原和平会長(白河厚生総合病院長)は危惧する。「病院が正常にならないと住民は帰ってこない。長期的に滞在できる医師を派遣すべきだ」と、新たな支援策の必要性を訴えた。

◇「どれだけ子供集まるか…」

準備区域内の小中学校は、対象面積が小さい楢葉町を除く4市町村の計19校。いずれも避難先の学校を間借りするなどし、このうち広野町の広野小は8月25日から、広野中も10月3日から、役場が移転したいわき市内の学校で授業を始めることになった。

ただし、震災がなければ両校に通うはずの児童、生徒計517人のうち、100人足らずしかいない。町教委は「いわき市に本来の児童、生徒の半分はいるはずだが、通学距離が遠かったり、戻っても人数不足で部活動ができず転校先にとどまる子も多い」という。

区域内にある南相馬市の小中12校も避難先で授業を行うが、本来の児童、生徒約4000人の4割しかいない。同市は12校の除染を9月に終え、うち5校は10月17日に再開する。だが、「実際にどれだけ子供が集まるか分からない」(同市教委)のが実情だ。

一方、田村市、広野町、川内村は山あいの集落を抱え、山林や田畑の除染が難しく、年度内の学校再開を断念した。「保護者の理解が得られなければ難しい」との判断だ。

田村市の仮設住宅で小学生の孫3人らと暮らす女性(55)は「草むらに入って遊ぶのが子供。学校だけの除染では安心できない」。1歳と4歳の息子がいる男性(32)も「安心して戻れる環境をまず作ってほしい」と話した。

◇「冷温停止」に近づく

政府が緊急時避難準備区域を解除したのは、これ以上の放射性物質の大量放出は起きないと判断したからだ。枝野幸男経済産業相は30日の会見で「原子炉の状態が悪化する危険はなくなった」と述べた。炉内に燃料が残る1~3号機すべてで、原子炉圧力容器下部の温度が100度未満になり、「冷温停止」に近づいたことが大きい。

内閣府原子力安全委員会は既に8月4日の段階で「水素爆発や炉心溶融などの深刻な事態が再び起こる可能性は低い」と評価。9月30日、班目春樹委員長は、漏れた汚染水を浄化して再び冷却水に利用する「循環注水冷却システム」が安定稼働していることなどを受け「余震や津波で再び冷却が止まっても、避難に時間的余裕がある」と、解除を了承した。

一方で懸念材料もある。2号機の圧力容器下部温度は9月28日にいったん100度を切ったが、翌日には再び100度を超えるなど、安定していない。1号機の格納容器につながる配管からは高濃度の水素が検出された。

工藤和彦・九州大特任教授(原子力工学)は「溶融して圧力容器の底にたまった核燃料の内部は高温を維持している可能性がある。水素が爆発する可能性もゼロではなく、汚染水浄化システムの配管劣化の懸念も残る」と指摘する。

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