こういう声を真摯に汲み取って、できるかぎりの除染をして、封じ込めを!
「お産は親戚(しんせき)のいる県外でしますから」。福島市内で産婦人科医院を開業している幡(はた)研一さん(68)は、妊婦から繰り返し聞かされる言葉にやりきれない思いを募らせている。
福島第1原発事故以降、福島県の出産を取り巻く環境は一変した。検診だけを受けて分娩(ぶんべん)予約をしない妊婦が増えたのだ。理由はいうまでもない。日常生活はもちろん、1カ月程度のお産には心配のない放射線レベルだが、妊婦の不安を払拭するのは簡単ではない。
周囲の意見も不安に拍車をかける。「福島では産まない方がいい」と妊婦にアドバイスする家族や嫁ぎ先の産科医も少なくない。
幡さんは表情を曇らせた。「福島は2世帯、3世帯同居が多く、家族のサポートが得やすいため、里帰り出産が多い土地柄だったのに…」
今、福島から赤ちゃんをみんなで迎える温かさが失われようとしている。
里帰り出産をあきらめても嫁ぎ先でお産はできる。しかし、福島にしか縁者がなく、県外に逃れられない妊婦もいる。
いわき市の主婦、大森美弥さん(28)は昨年3月、原発事故の様子をテレビで見ながら、「自分は妊娠していないからよかった」と思い、夫とこんな会話を交わしていた。
「しばらく子供はつくらない方がいいね」
ところが、5月初めにつわりが始まった。妊娠2カ月を過ぎていた。
「風評被害に苦しむ農家を思えば、近隣で生産されたものを控えることはできなかった。内部被曝(ひばく)していたら…」
後悔の念と同時に、お産だけは放射線量の低い場所でしたいという気持ちを抑えきれなくなった。見つけたのは自宅から100キロ離れた同県南会津町の助産院。「遠すぎる」と家族全員に反対され、夫と何度も口論になったが、決意は揺らがなかった。
陣痛が始まってからでは間に合わないため、予定日の約3週間前に幼い長男(4)と次男(1)を連れて助産院に。そして12月19日、三男の凰龍ちゃんを無事出産した。
出産前に長期間の“入院”という異例の願いを聞き入れた助産師、小林康乃さん(69)は「なんとしても子供を守りたいという強い気持ちが伝わってきた」と振り返る。
「福島から逃げたくても逃げられない」「子供に申し訳なくて…」
出産後の母親の家庭訪問を繰り返してきた日本助産師会福島県支部の副支部長で助産師の石田登喜子さん(61)は、母親たちが胸に秘める悲痛な思いをたびたび耳にしてきた。
県外に避難する、しないは、経済力や家族関係など、それぞれの家庭の事情がある。石田さんは「逃げられないことを心の中で子供にわび、自分を責めている親は少なくない。県内に留まっている妊婦や母親に『なぜ逃げないの』という言葉だけは絶対にかけないでほしい」と話す。
ただでさえ神経質にならざるを得ないお産。福島では原発事故で放射能への不安もプラスされた。周産期医療に携わる関係者の思いは一つだ。
「福島で生まれた、福島で育ったというだけで、子供の将来が左右されることのない福島に早く戻ってほしい」
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