2011年11月7日月曜日

<児童虐待>PCソフトで故意か判別 横浜の小児科で試験導入

ええ!そんなものまでソフト化されてしまう時代へ突入ですか。そういうものに頼りすぎるのも怖いですよね。


 けがの部位や程度を入力すると、故意によるものかどうか判別するパソコンソフトが今年度から、横浜市の小児科医院で試験導入されている。児童虐待を見破る客観的な証拠になり得るとして、児童相談所(児相)や保育・教育機関での活用も期待されている。



 緑園こどもクリニック(横浜市)の山中龍宏院長は、けがした子が受診すると、診察後にパソコンソフトを起動させる。画面に浮かぶ子どもの身体図に、けがの部位をマウスポインターで塗る。「事故の種類」と「怪我(けが)の種類」を選んで「判別」ボタンをクリックすると、「不慮の事故による傷害の可能性」が数値ではじき出される。

 例えば転落と打撲傷を選び、額に印をつけると結果は86%。足の付け根では0%。転落で額に打撲傷ができる可能性は86%あるが、足の付け根に打撲傷はできないことを意味する。数値が低いと故意によるものと推定される。厳密な基準値はないが実際の虐待事例で試すと、数%~20%で虐待を疑われる結果が出た。

 ソフトを開発したのは独立行政法人「産業技術総合研究所・臨海副都心センター」。情報工学の専門家や脳外科医、法医学者、心理学者ら約20人が、08年から国の補助を得て「児童虐待の予防に関する研究開発プロジェクト」を進めてきた。

 プロジェクト代表をつとめる山中さんによると、医師が保護者を疑い、児童虐待を通報するのは容易ではない。日本小児科学会が「子ども虐待診療手引き」を出しているが、実際は医師の勘に頼るところも大きく、「勘や経験だけを根拠に、虐待しているかもしれない親と向き合うのは覚悟がいる。かかりつけ医であれば付き合いや地域の目もあり、なおさら疑いを口にしづらい」と説明する。

 虐待を疑われた親は、その医師との接触を避けがちだ。虐待が表面化しにくくなり、子どもの生命が危険にさらされる恐れもある。機械が判別した「客観的な証拠」があれば、医師が警察や児童相談所に通報する心理的負担は減る。

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 同時開発した別のソフトにはシミュレーション機能があり、負傷時の状況をパソコンで再現できる。頭をけがした子の親が「階段から落ちた」と証言した場合、高さや床の材質により異なる衝撃の強さを計算で出せるため、実際の症状と照らし合わせて証言の信頼性が確かめられる。

 厚生労働省がまとめた福祉行政報告例によると、09年度に児相に寄せられた虐待相談は4万4211件。児童虐待防止法は児童虐待を疑った時点で医師に通告義務を課すが、医療機関からはこのうち1715件で4%にも満たない。今年1月には、2度骨折して病院を受診した大阪市の生後3カ月の男児が、父親の暴行で死亡。不審なけがを見過ごした市立病院の対応が問題視された。

 「治療に専念するあまり虐待を疑いもせずに対応したり、虐待の確証を得られず目をつぶったりする場合もある。少しでも怪しいと思った時点ですべて通報すべきなのに、実際は見過ごされ、先送りされている」。日本子ども虐待防止学会のメンバーで、児童虐待に詳しい済生会前橋病院(前橋市)小児科の溝口史剛医師は指摘する。

 溝口さんは各地の小児科医から相談を受けている。頭蓋(ずがい)内出血や骨折をした乳幼児の親の訴えをどこまで信じるか、現場も悩んでいると実感している。

 親の説明は「椅子から落ちた」「上の子がけった」「気がついたら動かなくなっていた」などが多いという。しかし高さ1メートル程度からの落下や子ども同士の暴力では、重篤な症状になることは極めてまれ。実際は大人による激しい殴打や「乳幼児揺さぶられ症候群」の可能性が考えられるが、中には親を疑うこともなく患部以外は診ずに自宅に帰す医師もいるという。

 溝口さんらが昨年、80大学医学部を対象に行った調査では、児童虐待を授業(1コマ以上)で教えるのは6校だけ。知識が不十分なまま医師が虐待診断を迫られているのが現状だ。「子どもの安全を担保するのが小児医療の務め。虐待の早期発見が、結果的に親の救済につながることを医療機関は自覚しなければならない」

 ソフトは今年度中に埼玉県の保育園が試験導入する予定。児童相談所での導入を検討している群馬県子育て支援課は「判別結果をどう活用するかが問題。子どもの栄養状態や家庭の経済的事情といった他の情報との整合性や、親への説明方法など運用面で課題がある」と話している。

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